この事例の依頼主
40代 男性
A会社は、東京都練馬区で建築業を営む中小企業ですが、創業者が亡くなった後は、従来から勤務し続けていた従業員が役員に就任し、会社経営を続けてきました。その創業者の息子であるXと先代から勤務していた専務取締役との間で会社の運営方針に食い違いが生じ、代表取締役Xは、親族会議を開いてYを解任し、会社から追い出しました。Yは、その後、専務取締役という役員の地位にあったにもかかわらず、自分は労働者であると主張して、解雇無効を求めて労働審判を申し立ててきました。そこで、A会社の代表取締役Xから相談を受けて、当職がA会社の代理人を務めることになりました。
労働審判手続きの中では、Yは、自らは労働者であると主張し、代表者であるXから指揮命令を受けていたり、時間的・場所的拘束を受けていたり、従業員から役員になるときに退職金をもらっていなかった等の主張をしてきました。その上で、あくまで、今回の解任は不当解雇であるという主張をしてきました。しかしながら、専務取締役であったYは、週に3~4日程度しか会社に出社せず、また、出社したとしても、勤務は11時からであったり、午後からであったりと決まった時間に出社することはありませんでした。さらに、出社日数にかかわらず、一定の報酬を受け取っておりました(労働者であればノーワークノーペイの原則が適用されるはずです。)。それ以外にも当方でXが労働者とはほど遠い活動状況であったということを証拠をもって裏付けをして主張をしたところ、労働審判委員会は、Yは労働者に該当しないという心証をもってくれました。Yとしては、労働者の地位を認めてくれなかったことから、労働審判から訴訟へと移行し、争う姿勢を見せたため、妥協案としてYが持っているA会社の株式を相場の金額で買い取ってあげるので合意により、退任をしたということにしてもらうという和解案を提示したところ、Yとしても株式を買い取ってくれるのであれば受け入れるということでしたので、労働審判内で和解が成立することになりました(実際の話は、もっと複雑でして、仮に相手方が役員の解任に正当な理由がないので損害賠償請求をするという話になれば、当方は一定の損害賠償を支払わなければならない事案でした。ですから、労働者性を主張して解雇無効の枠組みで争ってくれたのは、幸いでした。その意味で訴訟に移行するとで相手方の代理人が上記の法的構成に気がついてしまい、当方に不利な結論になることを避ける必要があったわけです。)。
取締役等の役員の労働者性はよく労働審判や訴訟で争いとなることが多い問題です。役員か労働者かは漠然としていて何とも言えないケースが多いのですが、裁判例の具体的な基準がありますので、きちんと裁判例を分析・調査しないと適切な代理人としての活動ができません。この事案は、従前からの裁判例の基準を丁寧に一つずつあてはめて主張することで、当方に有利な結論を得ることができました